トップへ 目次 1.ミキサはなぜ必要なのか 2.信号を”混ぜる”とは? 3.パッシブ・ミキサ パッシブ・ミキサは、受動素子を用いて変換を行いますので、変換によって損失を生 じます(変換損失)。パッシブ・ミキサには、ダイオードの使用数などにより様々なタ イプがありますが、主に用いられているものは、図4に示すDBM(Double-balanced Mixer)です。 DBMは4個のダイオードと2つのトランスで構成されています。数GHz以下の周波 数帯であれば、面実装タイプで非常に小型のDBMが容易に入手できますので、ダイオ ードとトランスを使ってミキサを構成することはほとんどありません。図8−4 DBM DBM以外にも、ダイオードを1個使用したSingle-ended Mixer,ダイオードを2個使 用したSingle-balanced Mixerなどがあります。 ダイオードを1つ使ったミキサで、Passive Mixerの基本動作を見てみましょう。基本 的なミキサ回路を、図5に示します。ミキサとしての動作を見る前に、ダイオードに加 わる電圧と、そのときに流れる電流との関係(I-V特性)を見ておきましょう。ダイオー ドのI-V特性は、次式で表されます。電子回路の書籍でよく見かける式です。
Is=ダイオードの飽和電流 ,q=電子の電荷 ,V=PN接合への印加電圧 η=1〜2の定数 ,k=ボルツマン定数 ,T=絶対温度 ここで、PN接合に印加される電圧が、次式のように直流バイアスVoと微小な交流電圧 δVとの和であるとします。
式(6)を式(5)に代入して、Taylor展開を行うと、
Ioは直流バイアス電流で、δIは微小な交流電流です。ここで、
とすると、
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図8−5 基本的なミキサ回路 図5の回路において、ダイオードに印加される交流電圧vは、次式で表されます。
式(9)を式(8)に代入して展開すると、
式(10)のなかに、式(4)でと同じ和と差の項があります。つまり、ミキサとして動作して いることがわかります。また式(10)から、和と差の周波数成分以外にも様々な周波数成 分を生じていることも判ります。具体的には、次式で表される周波数成分が出力で観察 されます。
但し、m , n:−∞〜+∞の整数 ダイオードをスイッチのように、その周波数で ON/OFF させるような振幅をLO信号 が持っているならば、図5のミキサは、図6のスイッチ回路と見なすことが出来ます。 この回路の出力は、正弦波fRFと矩形波fLOの積になります。矩形波をフーリエ展開す ると、様々な周波数成分の和で表されます(fLO,3fLO,5fLO,・・・)。したがっ て、その出力にはfRFとの積によって、式(4)の和と差の周波数成分を生じることが判り ます。次で説明するDBMは、ダイオードを上述のようなスイッチとして捉えます。
図8−6 スイッチで置き換えたミキサ回路 4.DBM