高周波回路教室 コントロール回路

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 目次
 1.PINダイオード
 2.スイッチ
 3.移相器 (1)移相とは?
       (2)反射によって位相を変える?

 (3)Loaded Line Type 移相器

   ディジタル方式の移相器でよく使われるのは、Loaded Line 型,Hybrid Coupled型
  の2種類です。前者は移相量が45°以下の移相器に、そして後者は移相量がそれ以上
  の移相器に主に用いられています。図5−32にその概略回路構成を示します。PIN
  ダイオードをON/OFFさせた時のリアクタンスの変化を利用して移相を行います。

  [注]・Loaded Line は、Transmission Type の移相器の一つです。
     ・Hybrid Coupled は、Reflection Type の移相器の一つです。


     

        図5−32 Loaded Line 型,Hybrid Coupled 型 移相器



  ○ Loaded Line 型

   1GHzで45°の移相量を持つ移相器の例を図5−33に示します。また、この回路
  のシミュレーション結果を図5−34に示します。グラフ中、P_ON は PINダイオード
  がONの時の特性を、P_OFF はOFFの時の特性を表します。また、位相のグラフ中の
  ANG[PS]の特性は、ONとOFFとの位相差(OFF時を基準にした)、つまり移相量
  を表しています。


       

             図5−33 45°Loaded Line Type 移相器



          Phase
          Loss
          VSWR

                 図5−34 移相器の特性


  挿入移相特性を見てまず気が付くのは、主伝送線路のみの場合の挿入位相(90°)に対
  して、ONの時には挿入位相が移相量の約半分(22.5°)ほど大きくなり、OFFの時
  には逆に小さくなっている点です。また、挿入損失特性とVSWR特性は、中心周波数
  を境にONとOFFとでほぼ対称になっています。

   この移相器の動作を知る為に、主伝送線路にぶら下がっている2つの枝の特性がどう
  なっているのか見てみましょう。図5−35に示す1port回路としてその反射特性を見
  てみます(図5−36)。まず、インピーダンス特性を見て何か気が付くことはありま
  せんか。ONの時にその特性曲線はスミスチャートの下半分に位置し、OFFの時には
  上半分に位置しています。チョット判りづらいですが、中心周波数の1GHzでほぼ共役
  の関係になっています。位相特性を見るとハッキリとわかります。ONの時の反射位相
  は約−45°でOFFの時には約+45°になっています。共役になっていることによ
  って、ON/OFFの切り替えをを行い位相を変化させても、中心周波数付近で挿入損
  失特性,インピーダンス特性の悪化が起こりません。挿入移相のみが大きく変化し、移
  相器として動作します。

   Zb,θbの伝送線路は、主伝送線路から見た時のON/OFF時のインピーダンスを
  共役にし、且つ必要な反射位相を得る為にあります。


               

           図5−35 Loaded Line 型移相器の部分解析(その1)


          Impedance

          Phase


                 図5−36 移相器の部分特性


   次に、2つの枝をなぜλ/4離して配置するのか見てみましょう。伝送線路に任意の
  リアクタンス素子を2つ接続し、その間隔を変えた時に回路の特性がどう変化するのか
  見てみましょう。リアクタンス素子として、1pFのCと、25.3nHのLをつなげ
  てみます。(Lの値が半端だと思う方は、1GHzにおけるそれぞれのインピーダンス
  を計算してみてください)図5−37,38に回路とシミュレーション結果を示します。
  グラフで CAP2 はCの場合、IND2 はLの場合を示しています。2素子の間隔を0°,30°
  ,60°,90°と変化させました。90°に近づくにつれて挿入損失,VSWR は下がっていま
  す。黒線が 90°の時の特性です。どうですか?λ/4離して配置する理由が何となくわ
  かって頂けましたか。
   Loaded Line Typeの設計式は、マイクロ波回路関係の本に載っていますので、もっと
  よく知りたい方は文献を見てください。(国内の本には載っていないかも)


  

            図5−37 Loaded Line 型移相器の部分解析(その2)


   

   

                   図5−38 移相器の部分特性



  <移相器に関する文献について>

   移相器に関する本としては、Artech Houseから "Microwave and Millimeter Wave 
   Phase Shifters" という本が出版されておりますが、手に入れるのは難しいです。
    (紀伊国屋で注文し3ヵ月ほど待ちましたが入手不可能という回答がきました。
     そこで、Amazon.comに注文しやっと手に入れることが出来ました。)
   マイクロ波回路関係の本であれば、Loaded Line,Hybrid Coupled,Switched Line
   の説明は載っています。例えば、"Microwave Solid State Circuit Design"という
   Wileyから出版されている本には結構詳しい説明が載っています。
  

(4)Hybrid Coupled Type 移相器